1. 背景
本年9月4日に出版された、「デジタル・ビッグバン “驚異的IT進化のメカニズム”」は、企業・組織の社員やメンバー向けの「IT教育の教科書」を意識して製作されました。
著者は長年企業のCIO(Chief Information Officer: 情報部門責任者)として社員のIT教育、会社のIT戦略の立案、情報システムの構築・運用などに携わってきましたが、その過程において最も苦心したのは、経営者から新人に至るまで、すべての社員にどのようにしてIT・コンピュータ技術を正しく理解してもらうかという点でした。
社員のバックグラウンドは文科系/技術系、年配者/若者など多様多彩であり、コンピュータに関する知識と理解には大きな幅があります。そういう状況の中で、ビジネスに不可欠な範囲のコンピュータ技術の知識を過不足なく提供することは簡単ではありませんでした。
そのような背景のもと、詳しすぎずまた簡単すぎず、ビジネスに求められる最低必用限のIT知識をコンセプチュアルにまとめたものが「デジタル・ビッグバン」という著作です。
細部の専門的な知識をすべて熟知するというアプローチではなく、IT山脈の全体像を俯瞰し、山全体の構造を鳥の眼でとらえるという試みで整理した内容で構成されています。
第一章から第七章までは、いわゆるデジタル・テクノロジーについての「デジタル技術解説書」です。そして第八章、第九章はデジタル・ビッグバンという現在進行形の大トレンドが、社会をどのように変化させてきたか、そして将来はどういう影響を与えるかという点について、メディア学、社会学などの視点から分析した、「デジタル社会の解説書」とも呼べる内容になっています。
企業のビジネス戦略においてITの戦略的活用は年々重要度を増してゆくテーマです。しかも日進月歩の新テクノロジー出現は、ある日突然、既存のビジネス・パラダイムを破壊し駆逐するリスクを伴っています。アマゾンのネットショッピングは、消費者の物理的な購買行動をウェブ環境の中での情報処理に一変させました。米国では百貨店の店舗閉鎖があいつぎ、小売業は深刻な打撃を受けつつあります。同様に、音楽CDの販売は楽曲ファイルのダウンロードに置き換えられ、過去の記録媒体ビジネスを駆逐し、人々が音楽を楽しむカルチャーを変質させたのは、その典型的な例です。
つまり新たなテクノロジーの出現は企業にとって看過できない潜在的ビジネス・リスクの根源でもあるのです。言葉を変えると、デジタル・ビッグバンという過激なトレンドにどのように備えるのかが、未来のビジネスでは問われているのです。しかし一方で、潮目の変化を確実にキャッチし、斬新な製品・サービスをタイムリーに開発し提供する企業は、勝者として更なる飛躍を遂げる、これがイノベーション時代のビジネス淘汰の現実です。つまり、リスクの対極には、だれでも成功する機会が公平に与えられているのです。
2. 望ましい姿
このような劇的な環境変化の中で企業・組織に望まれる対応は、「経営者から新人に至るまで、全社一丸となってデジタル・イノベーションを創り出す」ことです。斬新なテクノロジーや、その応用製品が出現したとき、自社のビジネスにどのように活用できるかという設問に、一般社員、管理職、経営層が、それぞれの立場で敏感に反応し、思考する組織風土がますます重要になってくるのです。そういう組織は、サバイバルの機会を得て、リスクを回避できます。しかし自らのイノベーションを生み出す前に、競合他社あるいは新規参入組に先を越されるとビジネスの基盤は足元から不安定になってしまいます。ファクシミリがメールやSNSに取って代わられるのは時間の問題のように見えます。
結局、他社に先駆けて新ビジネス・モデルを創造することは待ったなしの課題なのです。
3. デジタルプラネットが提供する教育プログラム
ここで述べたような組織風土を醸成するための前提として、まず社員の各層において正しくデジタル・テクノロジーを学び、そのインパクトについて深く理解する必要があります。デジタルプラネットは、部門・職位を超えた全社的展開を目的とする、複数のデジタル教育プログラムを提供します。
以下に来年1月より提供が始まる3つのコースの概要を紹介します。
A. 【社内ITリテラシー教育(一般社員向け)】
このコースではデジタル技術全般の理解と、デジタル・ビッグバン現象の全体像を紹介します。
まずはデジタル・テクノロジーの全体像と、最低限知っておくべき基本的知識の習得をお手伝いします。
以下のスライドはその一部ですが、「アナログとデジタルの違いをほかの人に説明できる」レベルに到達していただけると確信しています。この「他人に説明できる」ことが大事なのです。自信をもって人に説明できるためには、自分の中で本質を完全に理解している必要があります。それは詳細を理解するということではなく、本質的な特徴や価値を確実に解るということです。著作「デジタル・ビッグバン」は全編その趣旨をベースにして書かれています。
このコースでは、基本的なデジタル技術の知識を解りやすく図解して学んでいただきます。大事なことは要素技術の相互の関係性です。どの技術は他の技術とどういう関係にあるのか、それらが相互に機能しているのかなどにポイントをおき、虫の眼になりすぎない範囲で理解できるようになっています。一部のスライドを参考までに示します。
ハードウェア・ビッグバンは、従来のコンピュータ形状とは異なる様々なデジタル処理機器を生み出しています。
それらの名称をデジタル・デバイスと呼ぶことにして、以下の4種類にグループ化しました。グループⅡとⅢがいわゆるIoTと呼ばれており、グループⅣはロボットや未来型自動走行車などのタイプを指します。コンピュータという固定的な観念から脱却し、デジタル処理機能を内蔵した新たなデバイス群をイメージすることが大事です。
最近ににわかに注目を集めているAIスピーカは、知的エージェント(代理人)ととも呼ばれ、グループⅣに属します。
このコースでは上記以外にも、コンピュータの基礎知識、半導体、通信技術、ソフトウェアの構造などについても、その概要を紹介します。ビジネスに関与する人にとって、最低限知っておくべき内容を体系的に整理したコンテンツとなっています。
B. 【管理職向けITリテラシー教育】
社員をリードする役割を期待される管理職向けのコースでは、これらに加え、さらに踏み込んで新製品・サービスが結果的に生み出す、消費者の新たなライフスタイルの創造にまで対象を広げます。
デジタル・ビッグバンの典型的なインパクトは「ソフトウェア依存社会」の到来です。
上の絵が表す通り、かつて人による確認、判断は多種類のデジタル機器を組み合わせたシステムに代替されつつあります。人間の五感に匹敵するセンサーの進化と、それらに埋め込まれた微細なICUチップ、そしてワイヤレス通信処理の複合体(これがIoTの実体 )は、深く広くソフトウェア処理に依存する社会を瞬く間に作り上げてしまっています。従って人の行動を前提とした既存のビジネス・モデルが根底から揺さぶられている訳です。
それは個人のプライベートな生活にも及んでいます。下のグラフには、昭和生まれの世代と平成生まれの世代それぞれが一生を通して残すデータの量を試算したものです。デジタル機器にかこまれて育った平成世代は、生涯を通して多量で多様な個人ライフデータを生成、記録できることが明白です。ではこの情報は、ビジネスの中でどう活用できるのでしょうか。どのような製品やサービスが、このデータのオーナーである消費者にとって新たな価値を生み出せるのでしょうか。健康・医療、衣・食・住、交通・移動、余暇・趣味などなど、データ活用の可能性は無限にあるでしょう。しかし、だれも今までそういう活用について検討してきていません。なぜなら、このように豊富な個人ライフデータを蓄積できるようになったのは、つい最近のことです。つまりこれまで誰も、どの企業もこのデータに正面から向き合っていないということです。そこに新たな価値創造の機会があるはずです。
これはほんの一例です。デジタル・ビッグバンが作り出す様々な「変化」は、この例に示すような手つかずの可能性を日々生み出しています。そこで次のスライドでは、「変化」にどう対処すべきかを整理してあります。
C. 【企業、組織の経営層むけIT研修】
経営層に期待されるものはデジタル・ビッグバンという破壊的な環境変化を乗り切って、新たな地平を開くための企業・組織のビジネス戦略を立案・推進することです。
そのためにはこの大トレンドを戦略的に把握することが求められます。そしてそこでは、デジタル・テクノロジーの「戦略的活用」と「戦術的活用」という二つの種類の経営課題に対する組織全体の取り組みを推進することが肝要です。
下のビジネスのSWOT分析図には、自社の現在・未来の立ち位置が予測されています。デジタル・ビッグバンの中では低シェア/高シェア/独占的シェアのどのステージにも行けるのです。そういう状況を指してケビン・ケリーは「いま今日は新ビジネスをスタートする絶好の機会である」と断言しているのです。
デジタル・テクノロジーの「戦略的活用」は、新たなビジネス・パラダイムの創出につながります。我々はすでにアマゾンやグーグルが過去の小売りビジネス、広告ビジネスを全く異なる形態に変えたことを見てきています。センサーや人工知能の進化は、人間の感覚的判断をソフトウェア処理に代替してしまいました。同様なことは今後もさらに過激に出現するかもしれません。
その点について、ウェブの発明者バーナーズ・リーは日本に警鐘を鳴らしています。日本企業は技術そのものにこだわりすぎる。アメリカのように「技術をどのように活用し、その価値をいかに高めるか」に知恵を絞れと言っています。テクノロジーの変化は人類の新たなライフスタイルや文化を創造できる可能性を秘めています。その宝を発掘することはテクノロジーの発明以上に有意義なのです。
これらのことを端的に述べているのが以下に示す、アーサー・クラークの三つの法則です。
4. 今後の活動
ここにその一部を紹介したいくつかの教育コースはすでに複数の企業で検討いただいており、来年1月中旬からは、T社様(東証一部上場企業)にて経営理念研修(管理職、社員)の一環として実施の予定です。
新入社員研修、管理職昇格研修などの既存プログラムのなかのカリキュラムに加えて、IT・デジタル研修として埋め込む計画もあります。
ぜひご検討ください。