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『ウェブの民、未来へ向かう』第一章 【立ち読み用抜粋】 

2019/11/22

第一章 デジタルライフという生き方

液状化する社会とデジタル・ハブ

2002年6月9日、『ニューヨークタイムズ』のインタビューを受けたロック・ミュージシャン、デビッド・ボウイは、将来の音楽ビジネスについて、こうコメントした。

「もはや音楽レーベルとか音楽配給システムは機能しなくなる。10年以内に、誰も止めることのできない大変化が音楽の世界に起きるはずだ。音楽の著作権は無くなるだろう。音楽は、水道や電気のようになってしまうのだ。残された唯一の道はコンサートツアーだけだ。」(筆者訳)  

このボウイの嘆きの背景には、インタビューの前年、音楽業界を襲った激震があった。

2001年、アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズが発表した新たな音楽プレーヤiPod(アイポッド)は、それまで長年続いてきた音楽ビジネスの秩序を根底から破壊する過激な機能を備えていた。iPodは、「1000曲をポケットに」というキャッチフレーズが示す通り、それまでの音楽プレーヤの常識を覆す容量、操作性、携帯性、価格をもって登場し、音楽市場に大きな衝撃と不協和音を与えたのであった。

ボウイの予言は的中した。

その後音楽産業は水道のようなビジネスになった。2019年現在、音楽ビジネスの覇者は、スポティファイSpotifyやアップルMusicに代表される音楽ストリーム配信「サービス」である。月決めの少額な料金を払えば、数百万曲の中から好きな音楽を自由に聞き流すことができる。

水や電気のようになったのは音楽だけではない。過去に世界市場を支配してきた多くの物質型製品も、今日では、安価でユビキタスなサービスに置き換えられつつある。物資的モノ創り企業の象徴であったトヨタ自動車の豊田章男社長は、ソフトバンクとの業務連携の発表席上、MaaS (Mobility as a Service)というサービス業態へのシフトを発表して世間を驚かせた。

つまり社会全体が個体型製品を購入して所有するというスタイルから、製品機能をサービスとして自由に使用するという流体型のスタイルに移行しているのだ。そして、こういう近代社会の在り様を、ジークムント・バウマンは「液状化社会(リキッド・モダニティー)」と命名した。それは世界的なトレンドであり、デジタル社会を象徴する特性なのである。

21世紀が始まった直後の2001年、ジョブズは、コンピュータは将来人々の生活に欠かすことのできない存在になり、デジタルライフの中核を占める、「デジタル・ハブ」になると予言した。そしてその予言から約20年後の今日、世界はスマートフォンを中心とする携帯型(モバイル)デジタル・ハブによって席捲されてしまった。

今日、現代人は多くの行動をこのデジタル・ハブに依存している。電車に乗るときは切符になり、商品を購入するときは財布になり、予定表も住所録もその中にある。音声電話もメールもSNSも、チケットの購入もレストランの予約も、アマゾンのネットショッピングも、このデジタル・ハブが手伝ってくれる。

いつの間にか現代人の生活は、デジタル情報処理と表裏一体になっている。それがジョブズの予言したデジタルライフなのだ。そしてそれを支えているのは、ポケットの中のスマートフォン、すなわちモバイルデジタル・ハブである。いまや現代人の毎日は、モバイルデジタル・ハブが提供する多様なサービスを中心として営まれている。

★スマートフォンなしで生きていけますか

★ジョブズが予言したデジタル・ハブ

★リアル/物質型社会からデジタル/情報型社会へのパラダイムシフト

★人々はなぜデジタルライフを選ぶの

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