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『ウェブの民、未来へ向かう』第九章【立ち読み用抜粋】 

2019/11/29

第九章 エストニアの挑戦ー未来の国家創りー

エストニアが目指す未来型ジタル国家

 ここまでジタル文化がだれにも止められない勢いで急速に地球上に普及する中、既存の国家制度の限界が露呈し始め、様々な課題が浮かび上がってきたことを見てきた。その中にあって、北欧バルト海に面する人口約130万人の小さな国、エストニアにおいて世界の大国に先駆けて新たな国家の概念を模索する動きが始まり、そこで進行しつつある様々な国家プロジェクトが世界の注目をあつめている。本章では、デジタル文化の最先端を行く電子エストニアを紹介するとともに、その中で生まれつつある未来社会について触れてみる

エストニアはバルト三国の最も北端に位置する、面積が九州の約1.2倍、人口が長崎県とほぼ同じ規模の小国家だ。そしてこの国は長年にわたり、帝政ロシア、ナチスドイツ、ソヴィエト連邦などの支配下に置かれてきた。しかし、大国に蹂躙され続けた歴史体験こそが、エストニアという小さな国が世界に先駆けて過去に存在しなかった斬新な国家像を創出に向けて動き始めた出発点になっている。そのエストニア国民にとって心強い味方になっているのは、進化を続けるデジタルテクノロジーの無限の可能性だ。

 エストニアは、アマゾンやグーグルがビジネスの世界で挑戦したことをさらに拡張させ、未来型電子国家の構築を試みている。その電子的建国の過程の中で、国家の安全保障、政策決定、選挙、政府の在り方から民主主義の新たな形態、さらには国家主導型デジタル経済プラットフォームなど、20世紀までの国家観を一新する斬新なコンセプトが生まれ始めている。(中略)

★電子エストニア(e-Estonia)というコンセプト

「電子エストニアはエストニア共和国がウェブ上に設立した世界で最も進化したデジタル社会です。それは効率的で、安全でそして可視化されたエコシステム(生態系)を生み出します。私たちのビジョンは、自動化された電子サービスを、24時間/7日間提供する電子国家になることです」。これは電子エストニアの公式サイト(https://e-estonia.com) に記述されているデジタル国家宣言である。そこに掲げられた未来の社会モデルは、デジタル化の嵐に晒される現代国家が抱える様々な課題や、既存制度の限界を打破する画期的な特徴を備えている。

この図には、エストニアの人々が理想とする未来国家の基本概念が明瞭に表現されているが、そのコンセプトは次の二つのコメントに凝縮されている。

 「eデモクラシーの本質は、テクノロジーを駆使して民主化のプロセスと民主主義の制度を支え、より強固なものにしてゆくことだ。これにより、国民は政治的プロセスへの更なる参加の機会を与えられる。」

 「もはや政府は、ICTを駆使して公共サービスを効率化する単なるテクノロジーの利用者ではない。デジタル変革が秘めた潜在性と影響力を最大限に享受するために、自ら率先してデジタル国家へのロードマップを策定してゆく必要がある。」

つまり、ここで述べられているのは、未来のデジタル国家のあるべき姿と、その実現のための国家戦略なのだ。(中略)

🔹 e-Residency電子居住制

電子エストニアが提供する公共サービスの中で最もユニークかつ革新的なものが、電子居住制だ。これはウェブ空間に存在する電子エストニアという国家に、世界のだれでも登録し参加できる仕組みである。ただし市民権や入国・居住する権利が与えられるわけではない。

このサービスは、対象をエストニア国民以外の世界の「ウェブの民」とする。そしてこの画期的な制度によって、希望すれば世界のだれでもエストニアの電子住民(e-Resident)になれる。その結果、政府が発行する電子IDを入手し、エストニア政府の電子サービスが利用できることになる。また起業を目指すアントレプレナーは、電子居住制を通してEU企業として登録することが許されるため、電子銀行の口座開設や電子決済、電子認証、電子納税などのサービスを受けられるメリットも得られる。つまりエストニアを基盤とする経済活動において、国民に準ずるステータス(身元)をエストニア政府が保証するということだ。

電子居住制が画期的コンセプトであるのは、これまでの国民国家がその領土内に居住する人々のみを国民と定義してきたのに対し、その概念から脱却し、ウェブ空間の中で仮想的に国土を拡張した電子国家を創設し、その新たな構成員としての電子住民(e-Resident)というジャンルを考案した点にある。

それは、いわば「ウェブの民」を自国経済圏の準構成員として受け入れるというコンセプトに他ならない。

一般的に国家が成立するための主要三要素は、国民、国土そして主権(統治機能)とされる。電子エストニアは、ウェブの中にe-Residentという新たな種類の国民と、電子居住制という新たな居住環境(国土)を創造し、そして主権としての国家統治機能(政府業務、公共サービス、安全保障、三権機能、医療、教育など)を徹底的にデジタル処理に代替することで、結果的に、国家を構成する三要素すべてをデジタル環境の中に再現したのである。

これは別な表現を用いると、「ネット空間の中に国家機能を有するボーダーレス・コミュニティーを創造する」ことだ。GAFAがそのプラットフォームを介して構築してきた、コミュニケーション・コミュニティーやコマース・コミュニティーなどを包含する、さらに上位の概念としての国家圏コミュニティーという新たなスキームを、エストニアはウェブ空間の中に築こうとしている。

このようにe-Residentという電子版国民は、物理的に居住している現国民が有する権利の一部を、ネット空間内の準国民として獲得する制度である。そして2019年1月現在、世界からe-Resident電子住民として登録した人の数は約5万人、そのうち日本からの登録者は約2千5百人に達していると発表されている。(中略)

★電子国家エストニアの安全保障

★小さな国家の躍進

★アーサー・C・クラークの法則

(中略)社会学者ドラッカーもそのことを的確に指摘している。「未来は知りえない、しかし自ら創る事はできる。成功した人・企業はすべからく、自らの未来を自らの手で創ってきた」。私たちが数十年前には予想もしなかった今日のスマートフォン社会、デジタル文化は、だれかが意図的に設計し、かつ実現したものだ。それは21世紀のメガトレンドとなって、この後も拡大し、加速するのはまず間違いない。

そして現在、この瞬間にも、いろいろな分野で、だれかが、どこかの企業が、どこかの国家が未来の設計図を描き始めており、もしかするとすでに未来を作り始めているかもしれない。その意味では、バルト海に面する小さな国エストニアは、すでに未来の国家を建設中なのだ。

「ウェブの民」が向かう未来は少しずつ形を現し始めている。

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