第二章 デジタル文化とは何か
★デジタルライフが創造する新しい文化
★デジタル文化とは何か
デジタル文化は、人種・民族由来、地理・自然環境由来の多くの文化のいずれにも属さない。いわば既存文化の境界を超越した特性をもっている。
そして、既存文化のアイデンティティや価値観が、共同体の物質的な特性に強く依存していたのに対して、デジタル文化のアイデンティティは極めて情報的である。それは例えば、日本文化が「島国の民」の文化であり、イスラムの文化が「砂漠の民」の文化であることと対比すれば明白だ。デジタル文化は「ウェブの民」の文化であり、物質的空間の外側に新たに出現した情報空間に根付いた文化なのである。
20世紀末から加速度的に普及し始めたデジタル文化は、こののち多少その姿を変えるであろうが、まず間違いなく21世紀の代表的な文化となって地球上に根付くであろう。それは普遍的な価値観としてのジオカルチャーなのだ。
デジタル文化の本質は、デジタルテクノロジーが生み出した多様なプロダクトやサービスを基盤とした、いかなる過去にも出現したことがない「新しい行動と思考の様式」である。
具体的な例を示してみよう。
世界の違う国や地域で暮らす、自分の友人たちが、昨日どのような一日を過ごしたのかを知りたければ、Facebookにアップされる画像や映像を見ればいい。アメリカ人の元上司は孫娘をジャージーショアの海水浴場に連れて行ったらしい。シンガポールの後輩はセント―サ島までロードバイクでサイクリングを楽しんだ。その一方、昨日新幹線の中から見た美しい夕焼け富士の画像を、インスタグラムにアップロードしたところ、たちまちベルギーやインド、カナダの知人たちから賞賛の「いいね」が寄せられる。
来月ツアー旅行で行く予定の、ヘルシンキのホテルから大聖堂までの街並みを、グーグルストリートビューでチェックすると、どんな店があるのかすぐわかる。
AIスピーカに向かって、「田中君に電話をかけて」と話しかけると、住所録に登録してある田中君の電話番号にコールし始める。
このような、わずか四半世紀以前には、世界の誰も体験したことがなかった行動を、21世紀の現在では40憶人以上の人々がごく普通に繰り返している。
米国トランプ大統領は、ツイッターを日々愛用する。一方、それに対峙する側にとってもSNSは、行動の基盤となる重要なツールだ。中国は13憶人を超える国内市場を持つ利点を活かし、デジタル技術を経済戦略のコアツールと位置付けて短期間に一大デジタル経済圏を創り出した。
イデオロギーや思想の異なる共同体や国家が、それぞれの立場で、最新のデジタルツールを駆使して行動する。そして結果的に、人々はデジタルライフという共通の行動様式に従っている。
結局デジタル文化の共同体の構成員は、異なる複数の既存文化の中で生きる人々なのである。彼らは、物質的には既存の異なる文化圏のメンバーであるが、ウェブ空間においては一つの共同体を構成し、デジタル文化の中で生きている。それが「ウェブの民」なのだ。
★デジタル時代の「新感覚」と「新たな日常」
★デジタル時代の「時間」と「空間」
★デジタルメディアと「時空間」
★生活の文化・感性の文化・知性の文化
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